2 月 15 日, 2019

胃マルト(MALT)リンパ腫と除菌治療

ピロリ菌、発見!50代女性
数か月前からお腹の張った感じを自覚していました。3週間前から空腹時の心窩部痛が続くために来院されました。胃カメラでは、「多彩な所見」を呈していました。まず、目についたのが、進行胃がんを思わせるような潰瘍です。それとは別に、あちこちに潰瘍はん痕による粘膜のひきつれを認めました。胃粘膜は褪色調の部位と発赤が混在していました。多彩な所見から、「通常の胃がんとは違うな」と感じました。生検の結果、胃マルトリンパ腫と診断されたため、治療目的に総合病院に紹介しました。そこで、ピロリ菌感染の治療に用いる『1次除菌』が実施されました。
2か月後の胃カメラでは、大きな潰瘍は塞がり、著しく改善傾向にありました。しかし、生検で異型リンパ球が採取されました。
半年後の胃カメラでは、大部分の病変が縮小・平坦化しました。生検でも異型リンパ球は認めなくなりました。
1年後の胃カメラは、ほぼ正常の胃にもどっていました。この経過より寛解状態と判断されています。
先日、2年ぶりに元気な姿で来院されました。

胃マルトリンパ腫の90%はピロリ菌感染による慢性胃炎をベースに発生し、ピロリ菌の除菌により60~90%に完全寛解が得られます。ピロリ菌の関与が明確でなかった時代(ほんの20年程前)には、胃切除術を受け、さらに化学療法を受けるのが一般的でした。化学療法は、悪性リンパ腫に準じたメニューだったので、患者さんの負担は大変なものでした。その頃の治療と比べれば、「1週間、除菌の薬を飲むだけで寛解が得られる」なんて、とても素晴らしいことだと思います。医学はドンドン進歩していますね。

ピロリ菌がいない胃マルトリンパ腫でも、一定の割合で除菌治療が奏効することが知られています。除菌薬のひとつクラリスロマイスン免疫修復作用抗腫瘍作用があるためです。現在、わが国では、ピロリ菌陰性または除菌治療が無効だった胃マルトリンパ腫に高用量のクラリスロマイシン単独療法の臨床試験が進められています。良い成績を期待しましょう。

2 月 1 日, 2019

風疹 高抗体価

先天性風疹症候群は予防出来ます。

風疹ワクチンは1995年までは、女子のみに実施されていました(現在は男女とも接種)。2006年までは子供の頃に1回打つだけでした(現在は2回接種)。その結果、風疹の抗体を持たない昭和生まれの男性が社会問題になっています。

30代男性(昭和生まれ)】
先日、妊娠を希望するパートナーとして風疹の抗体検査(無料)を受けられました。抗体価(HI法)は2048倍と異常な高値を示しました。発熱、発疹、リンパ節腫脹などの風疹を疑うような症状はありません。

妊娠中に風疹に感染すると、赤ちゃんに先天性風疹症候群をおこすことがあります。先天性風疹症候群の赤ちゃんは、様々な障害を持って生まれます。
風疹の抗体価は、陰性(8倍未満)、ボーダーライン(8倍~16倍)、陽性(32倍以上)と判定します。32倍以上あれば、風疹に対する免疫があるため、安心して妊娠できます。
16倍以下であれば、ワクチン接種が望ましいです。

では、2048倍はどういうことなのか。可能性が高いのが、風疹の不顕性感染(あるいは再感染)です。自然感染後の3~10%に、ワクチン接種後の14~18%に再感染が起こりうるのです。再感染は、無症状の事が多く、本人も気付かないのです。その結果、パートナーに風疹を感染させてしまうわけです。

女性が風疹の再感染で妊娠した場合を想定してみましょう。ワクチンも打っているし、症状もないので、まさか、風疹に再感染しているなんて想像もできないでしょう。しかし、ワクチンの効果は永遠ではないのです。母体は再感染でも、胎仔にとっては初感染ですので先天性風疹症候群は発症します。再感染による先天性風疹症候群をまとめた論文では、母体に発疹が出たのは27%、急性期感染の裏付けとなるIgM抗体の陽性率は50%程度と診断が難しいことを物語っています。

結局、この男性はどうすればよいのでしょうか?
① まず奥さんの抗体価を確認する。陽性であれば、妊娠に支障はないです。
② 奥さんの抗体価が陰性又はボーダーラインであれば、ご主人の抗体価が落ち着いてから妊活を再開する方が無難でしょう。

1 月 15 日, 2019

大腸smがん 手術を選択して良かった。

大腸粘膜の5層構造初期の大腸癌は内視鏡治療(ポリープ切除)で完治します。一方、進行した大腸がんは外科的手術が必要です。内視鏡治療か手術か、その境目になるのが「smがん」です。smとは「粘膜下層」という意味です。
大腸の壁は、内側から、①粘膜固有層 ②粘膜下層 ③固有筋層 (④しょう膜下層) ⑤しょう膜 の5層構造になっています。①と②の境には「粘膜筋板」といわれる薄い筋肉の層があります。
がんの深さが①までであれば内視鏡治療を選択します。
がんの深さが③④⑤まで及んでいれば(シェーマの黄色のラインより下)外科手術が必要です。
問題は②粘膜下層にがんが及んでいた場合です。

内視鏡治療の結果、(1)(2)いずれかが当てはまる場合は外科的切除を追加します。
(1) 垂直断端が陽性(がんが粘膜下層断端に露出している)
(2) 摘出標本で以下の一因子でも認めた場合
① 粘膜筋板から1,000μm(=1mm)以上
② 脈管侵襲陽性
③ 低分化腺癌、印環細胞癌、粘液癌
④ 浸潤先進部の簇出(しゅうぞく)がグレード2以上(グレードは0~3)

40代男性
数か月前より、時々、排便後にお尻を拭いた時に、血が付着するため来院されました。大腸カメラで12㎜大のポリープを認めました。暗赤色のポリープは表面凹凸不整で、出血しやすく、一見しただけで「がん」を思わせるものでした。ポリープの背が高く深達度が深そうでしたので、切除せずに大学病院に紹介しました。
腫瘍の最深部を観察するための超音波内視鏡検査も腫瘍のピットパターンを観察するための拡大内視鏡検査も決め手となる結果は得られませんでした。最終的には、ご本人の意向で、外科切除が選択されました。その結果、最深部までの距離が5mmのsmがんでした。結果的には、外科切除の適応であり、正しい選択がなされたわけです。

大腸sm浅層がん(最深部まで1mm以下)かsm深層がん(最深部までが1mm以上)か、見分ける手段のひとつとしてピットパターンが用いられています。ピットパターンⅤI(高度不整)ⅤNであれば、sm深層癌と診断出来ます。ただし、今回の様に、鮮明なピットパターンを得ることが難しいことがあります。また、ⅤIで高度不整の判断が非難しい時があります。現在、AIを取り入れることによって、より標準化された深達度診断が研究されています。

1 月 4 日, 2019

平成30年診療報告

平成30年も多くの方に当院をご利用して頂きました。
本当に有り難うございました。
当院の診療内容を知って頂くために、昨年1年間の患者数をご報告します。

内視鏡検査を受けた方 2,193名
胃カメラを受けた方 1,211名
大腸カメラを受けた方 982名

胃ドックを受けた方 
胃腸ドックを受けた方 

食道がんが見つかった人が名います。
名は粘膜固有層(M2)までの早期癌でしたので、内視鏡治療で完治しています。
北九州市の「胃がん検診」を受けた方が71名います。
胃がんが見つかった人が10名います。
最初の生検はグループ2だったのに、再検査でグループ5(がん)にかわった人が名います。
ピロリ菌の除菌成功後に胃がんが見つかった人が名います。
アニサキスが見つかった方が名います。

大腸がんが見つかった方が12名います。
最年少は25歳の方です。
名の方が当院で内視鏡治療(ポリペクトミー)を受けています。
名の方は粘膜内がんであったため、内視鏡治療で完治しています。
名の方は、最深部が粘膜下層でした。摘出標本でがんは完全に取り切れていましたが、血管にがん細胞が浸潤していたため、外科手術が追加さました。
重複がんの方が名います。
名は胃がんと大腸がん、もう名は食道がんと大腸がんでした。

大腸ポリープ切除術(ポリペクトミー)を受けた方が269名います。
直腸粘膜脱症候群の方が名います。

ヘリコバクターピロリ感染症

ヘリコバクターピロリ菌に感染している場合、まず、1次除菌をおこないます。
1次除菌で菌が消えなかった場合は2次除菌をおこないます。
2次除菌でも菌が消えなかった場合は、3次除菌をおこないます。

除菌に成功した方 107
1次除菌成功 92
2次除菌成功 12
3次除菌成功  
ペニシリンアレルギーの方の除菌成功 

炎症性腸疾患

潰瘍性大腸炎の方が67名います。
名の方は生物学的製剤(ヒュミラ)の投与を受けています。
クローン病の方が名います。
名の方が生物学的製剤(レミケード)の投与を受けています。
腸型ベーチェット病の方が名います。

細菌性腸炎

便の培養検査で細菌が検出された方が21名います。
病原性大腸菌(15名)、黄色ブドウ球菌(名)、サルモネラ菌(名)でした。
病原性大腸菌のうち名はベロ毒素を産生する腸管出血性大腸菌(O157)でした。

急性虫垂炎 6名

名の方は外科手術になりました。

ジスト(GIST:消化管間質腫瘍) 3名

胃ジストの方が名います。
小腸ジストの方が名います。
内服治療(グリベック)を受けた方が名います。

肝臓病

慢性B型肝炎 抗肝炎ウイルス剤(エンテカビル)の投与を受けた方が名います。
原発性胆汁性肝硬変症の方が12名います。
自己免疫性肝炎の方が名います。

胆道疾患

胆石が見つかった方が21名います。
名が外科手術を受けられました。

すい臓疾患

急性すい炎の方が名います(原因:胆石)。
慢性すい炎の方が名います。
すい臓がんの方が名います。
すい嚢胞の方が名います。

糖尿病

インスリン治療を受けた方が名います。
インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬)を内服中の方が66名います。

甲状腺の病気

甲状腺機能亢進症(バセドウ氏病)の方が名います。
甲状腺機能低下症(橋本病)の方が17名います。

禁煙外来を受けた方 Ⅰ7

インフルエンザにかかった方 58

スパイログラフィー検査(肺年齢)を受けた方 

24時間心電図を受けた方 

睡眠時無呼吸症候群の検査を受けた方 10

名が持続陽圧呼吸療法(CPAP)を受けることになりました。
現在、名の方が当院でCPAPを受けています。

ノロウイルスの検査を受けた方 

溶連菌の検査を受けた方 

その他の疾患

悪性リンパ腫 
腎臓がん 
尿管結石 
ネフローゼ症候群 
腹部大動脈動脈瘤(切迫破裂) 
卵巣腫瘍 
原発性アルドステロン症 
抗リン脂質抗体症候群

1 月 1 日, 2019

明けましておめでとうございます。

ウリボー。
謹んで新春のお慶びを申し上げます。

皆様のご健康とご多幸をお祈りいたします。  今年、当院は開院「10周年」を迎えます。これからも皆様のご健康のお役に立てる診療を目指していく所存です。
本年もよろしくお願いいたします。

平成31年 元旦
中野胃腸クリニック 中野重一

12 月 15 日, 2018

抗リン脂質抗体症候群

お腹の血管はアーケードを形成しています。40代女性
1週間ほど前から続く上腹部痛のために来院されました。痛みの程度はうずくまるほどの激痛では無いけれど、これまで経験した胃の痛みよりは強い。という感じでした。エコー検査で胆石は無く、胃カメラでは胃潰瘍を認めませんでした。検査の結果を説明している間も、自然に手がお腹に行ってしまっており、痛みの深刻さが伝わってきました。その日のうちに腹部CT検査を受けてもらった結果、腹腔動脈と上腸間膜動脈の起始部での血栓による閉塞が確認されました。どちらもお腹の大事な血管です。閉塞部位を迂回する血管のバイパス手術が施行されました。
当院で採血していた保存血液で「抗カルジオリピン抗体」が陽性と判明したことより、血栓の原因は抗リン脂質抗体症候群だと思います。なお、確定診断を付けるためには12週間以上間隔をおいて再度、測定することが必要です。

抗リン脂質抗体症候群は、血中に抗リン脂質抗体と呼ばれる自己抗体が、様々な部位の動脈血栓や静脈血栓を来す疾患です。脳で起これば、脳梗塞が発症しますし、末梢動脈の閉塞では皮膚潰瘍が、網膜の血栓では視野異常失明を来します。今回、腹腔動脈と上腸間膜動脈の閉塞という非常に大きなトラブルにもかかわらず、内臓に大きな障害が出なかったのは、腹部の動脈がお互いに血流が行き来できる「アーケード」を形成しているためではないかと考えます。
なお、リン脂質抗体症候群は「習慣性流産」の既往が有名ですが、この方の場合、定かではありません。診察した際に、確か妊娠線は無かったと記憶しているので、出産の経験が無いかもしれません。
この病気の原因は不明であり、治療は抗凝固剤(血液をサラサラにする薬)の内服による血栓の予防しかありません。再発率は高いようです。

原発性の抗リン脂質抗体症候群は日本に5,000~10,000人程度いると推定されています。“1万人に1人“というかなりまれな病気です。それだけに、強く印象に残る経験でした。

12 月 1 日, 2018

ピロリ菌除菌後の胃がん

60代男性
除菌治療後のフォローアップ目的胃内視鏡検査を受けた際に、胃体下部小さなびらんを認めました。生検の結果、「低分化型胃がん」の診断を受け、幽門側胃切除術(胃の下半分切除)が施行されました。がんは、粘膜下層に僅かに浸潤していましたが、リンパ節や脈管への浸潤は無く、最も初期段階の『ステージⅠA』でした。
ハリネズミ同志は仲良くハグ出来ないというジレンマ

ピロリ菌除菌によって、胃がんが予防できることがわかっています。胃がんの予防効果は、除菌の時期が早ければ早いほど効果は大きいです。理想的には、30才までに、遅くとも50才までに除菌することが望ましいとされています。もちろん、50才以降でも、除菌による胃がん抑制効果はありますので、年齢制限はありません。

2000年に除菌療法が保険適応になりました。当初は潰瘍を有していることが条件でしたが、その後、徐々に適応が拡大され、2013年には「内視鏡診断をしたピロリ陽性胃炎」に対して除菌が可能となりました。来年(2019年)で除菌治療が始まって20年になります。

当院も積極的に除菌治療をおこなってきましたが、年々、除菌治療を受ける方が減ってきています。それだけ、除菌治療が広く行き渡ったということなのかもしれません。一方、ピロリ除菌後のフォローアップ目的で胃カメラを受ける方は、年を追うごとに多くなってきています。今回は、このような状況の中での胃がんの発見でした。

除菌後の胃がんの特徴
①組織型:分化型がんが多い。(若年者では未分化型がんもしばしば見かける)
❷肉眼型:陥凹型が多い。
❸発赤調を示すものが多い。
④がんの表層が「非がん上皮」で覆われていることがある。
❺がんのサイズが小さい。
⑥前庭部(胃の出口付近)に多い。
などが指摘されています。今回の患者さんは❷❸❺が該当していました。

除菌治療が胃がんの抑制効果がある一方、除菌後の胃がんは見つけ難いというジレンマに直面しています。まだ、決定的な有効手段は無いのが現状です。

11 月 15 日, 2018

3次除菌

ヘリコバクターピロリ菌に感染していた場合、まず1次除菌をおこないます。1次除菌でピロリ菌が消えなかった場合は、2次除菌をおこないます。2次除菌でも菌が消え無かった場合は3次除菌をおこなうことも出来ます。

1次除菌2次除菌70代女性
他の医療機関で次除菌まで受けましたが、除菌が出来ずそのままにされていました。今回、当院で胃カメラをおこない、鏡検法でピロリ菌がまだ存在していることを確認した上で、次除菌をおこないました。その結果、無事、除菌に成功しました(便中ピロリ抗原が陰性になりました)。

なお、当院では、症例報告が多く安心でき、かつ、治療成績の良い「パリエットxアモリンxグレースビットの1週間投与」を採用しています。過去に11名の方が当院で治療を受けておられますが、そのうち、名の方が除菌に成功しています。名の方がまだ判定に来られていません。名の方が副作用で治療を中止されました。

次除菌と次除菌の違いは、クラリスをメトロニダゾールに変えるだけです。
また、次除菌の成功率が70%程度まで低くなっていたのが、2015年からタケキャブが使えるようになってから成功率は90%程度に回復しました。
タケキャブが出現する以前の次除菌の決め手はグレースビットでした。グレースビットを使うことで、良い成績を残していました。

この経緯をみれば、誰もが「タケキャブxメトロニダゾールxグレースビット」の組み合わせが最強の除菌治療と考えるハズです。
事実、2017年に、このレジメによる次除菌の成功率が81%と報告されています。「成功率が意外に低いな」という印象です。最強の組み合わせなのですから、100%に近い数字を期待していました。
今後、大筋では、このレジメになりそうですが、まだまだ改良の余地がありそうです。3次除菌

11 月 3 日, 2018

最近経験した3名の虫垂炎の方々のお話

結論から言うと、「虫垂炎ってやっぱり難しい」です。

Mcburney圧痛点40代男性
深夜に激しい上腹部痛で目が覚めました。発熱、嘔吐、下痢すべて無し。痛みが良くならないために当院を受診されました。来院時、強い痛みのために動くのもままならない状態でしたが、お腹を診察すると、全体に柔らかく、右下腹部のマックバーネー(Mcburney)圧痛点(虫垂炎に特徴的な圧痛点)は陰性でした。血液検査では白血球がかなり増えていました。以上の結果から『急性腹症』(腹部に何らかの強い炎症がある)という漠然とした診断名で大学病院を紹介しました。CT検査で虫垂炎と診断がつき、直ちに手術が施行されています。

20代女性
嘔気、上腹部痛、37℃台の発熱にて来院されました。マックバーネー圧痛点は陽性でした。血液検査で白血球増多も認めました。そこで、エコー検査で腫れた虫垂を確認しようと試みました。実は、前述したほろ苦い経験から「何か診断能力をあげる手立ては無いものか」と模索していたのです。マックバーネー圧痛点が陽性であれば、そこにエコーを当てて、プローベを回転させることで、虫垂の横断面(ドーナッツみたいな画)と長軸方向(盲端で終わっている腸)が容易に確認出来ると本に書いてあったのです。虫垂が見つけにくい時は、上行結腸を頭側から横断面で確認していけば、上行結腸の下端で、『まるで霧が晴れるように」虫垂が描出出来ますと書いてあったのです。ところが、本のように虫垂の描出は上手くいきませんでした。大学病院を紹介しましたが、紹介状にエコー検査のことは触れていません。

70代女性
前日からの上腹部痛と軟便を主訴に来院されました。診察上は、強い炎症は認めなかったため、胃薬と整腸剤で様子見ることにしました。翌日深夜に、痛みが強くなり救急病院に入院されました。入院中に虫垂炎が穿孔し緊急手術になっています。退院後に当院を受診なさった際に、その経緯を伺い、『あの時の腹痛は虫垂炎だったんだ』と初めて気付かされました。

虫垂炎の初期は典型的な右下腹部の痛み(自発痛や圧痛)が無いことが多く、診断が難しいです。3例目の方の様に、虫垂炎の可能性をまったく疑っていないことすらあります。

虫垂炎を見落とさないようにするために、
診察のルーチン化(全員、とにかく、必ず、盲腸を圧迫すること)
虫垂炎のスコア化(症状、所見、血液検査、など10項目をチェックする。7点以上は虫垂炎が強く疑われる)
をおこなってきました。1例目の方を経験してからはエコー検査で虫垂を確認することを積極的に取り入れています。しかし、まだまだ「道半ば」といったところです。

10 月 20 日, 2018

大腸smがん

大腸粘膜の層構造初期の大腸癌は内視鏡治療(ポリープ切除)で完治します。一方、進行した大腸がんは外科的手術が必要です。内視鏡治療か手術か、その境目になるのが「smがん」です。smとは「粘膜下層」という意味です。

大腸の壁は、内側から、①粘膜固有層 ②粘膜下層 ③固有筋層 (④しょう膜下層) ⑤しょう膜 の5層構造になっています。①と②の境には「粘膜筋板」といわれる薄い筋肉の層があります。
がんの深さが①までであれば内視鏡治療を選択します。
がんの深さが③④⑤まで及んでいれば(シェーマの黄色のラインより下)、外科手術が必要です。

問題は②粘膜下層にがんが及んでいた場合です。
内視鏡でポリープ切除をしたけれども、さらに外科的切除が望ましいとされているのは、
A.垂直断端が陽性(がんが切除断端に露出していることを言います。)
B.摘出標本で以下の一因子でも認めた場合
① 粘膜筋板から1,000μm(=1mm)以上
② 脈管侵襲陽性
③ 低分化腺癌、印環細胞癌、粘液癌
④ 浸潤先進部の簇出(しゅうぞく)がグレード2以上(グレードは0~3)*簇出とは、がん細胞のばらけ具合を言います。グレードが高いほど、ばらけ具合が強い。

先日、70代女性に大腸ポリープ切除をおこなったところ、smがんと診断されました。ポリープ切除によって完全にがんは取り切れていたのですが(Aはクリア)、粘膜筋板からがんの最深部までの距離が2,000μm(=2mm)ありました。また、切除標本の詳細な検討の結果、脈管侵襲陽性と診断されました(Bの①と②が該当)。その後、リンパ節郭清の目的で外科手術が行われました。


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