医療に関する話 「胃酸って悪者ですか？」 Part 2
前回は胃液（胃酸）についてお話ししました。今回は、もし、胃液が出なかったらどうなるかを考えていきます。
胃酸はpH１の強酸ですから、微生物などが生きていけません。食べ物に含まれる生物は胃で死滅してしまいます。例外的に、ピロリ菌は自分の周囲にアンモニアの膜を張るために、胃酸にさらされることなく胃内でも生きていける唯一の微生物です。
次に、胃酸は金属（ミネラル）を酸化させ、腸での吸収をしやすくさせます。例えば、貧血の時に飲む鉄剤は２価の鉄です。これが、胃酸によって酸化され３価の鉄になることで吸収しやすくなるわけです。欠乏すると虚弱体質、皮膚炎、はげを来たす亜鉛も胃酸で酸化されて初めて吸収しやすくなります。
特殊な貧血を来たすビタミンＢ12不足ですが、これは、胃液のなかの「内因子」が欠乏することで引き起こされます。胃液が極端に少なくなった状態ではその危険性が高くなります。
以上のことから、胃酸がなければ、腸管に感染症が来たしやすくなり、重要なミネラルやビタミンの吸収も低下します。
すべての消化液は40才代から、少しずつ、その分泌が低下していきます。若い頃はお肉が好きだったのに、年をとってくるとさっぱりした和食が食べたくなるのもそのせいです。ですから、高齢になってくると、胃液は減少しているわけです。必要以上に胃酸を抑える必要はないのです。