医療に関する話 「ゾーリンジャー・エリソン症候群」
いくつかの特徴のある症状や所見がひとつの明確な理由で説明できる病気を、発見した医師の名前を付けて「○○症候群」と呼びます。何千とある症候群の中で、私自身は「ゾーリンジャー・エリソン症候群」の患者さんを担当したことがありました。
この症候群は、すい臓にガストリンというホルモンを産生する腫瘍が出来る病気です。ガストリンは胃酸を出す作用を持ったホルモンなので、どんどん胃酸が出ます。その結果、胃潰瘍が何度でも出来るわけです。
担当した患者さんは、くり返す胃潰瘍のために胃を半分切除したにもかかわらず、すぐにまた胃潰瘍が出来たために、「これはおかしい」ということで入院されてきました。血液中のガストリンの値が正常の10倍もあり、膵臓に２ｃｍ大の腫瘍があることもわかりました。この腫瘍を手術して取り除いた結果、ガストリン分泌は正常になり、胃潰瘍もできなくなりました。
ゾーリンジャー・エリソン症候群は、さらに詳しく調べると、副腎（主に血圧に関係するホルモンをつくる）や副甲状腺（カルシウムを調節するホルモンをつくる）に病気を合併しやすいことが分かっています。ですから、胃潰瘍がある方で、血圧の高い人や、尿管結石が出来た人には、この症候群の可能性があります。日常の診療でも常に気を付けていますが、2人目のゾーリンジャー・エリソン症候群にはまだ遭遇していません。なにしろ、日本に300人程度しか報告されていない病気ですから。