心に残った話(14) 「放っておいてくれ!」

私のこれまでの24年間の医師としての経験の中で印象深いエピソードを時々紹介したいと思います。すべて実話ですが、個人の特定が出来ないように、場所や時代は多少事実とは違います。よかったら、読んでみてください。

今回の主人公は70代の男性です。大量の下血(便のかわりに血液が出る状態)のために夜間に緊急入院されました。当直医から申し送りを受け、外来が始まる前に病室に伺うと、強度の貧血のために顔は青ざめていました。自己紹介をした後、胃腸の検査が早急に必要なことと輸血をした方が良いと説明しました。ところが、この方は、「検査もしないし、輸血もしない。放っておいてくれ。」の一点張りでした。いくら説明しても答えは変わりません。ここは一旦引き揚げて冷却期間を置いた方が良いと判断し、「気が変わったら教えて下さい。また、後で来ますから。」と言葉を残し、病室を出ました。

 

ご家族からも説得してもらうようにお願いし、ようやく検査や輸血を受ける気持ちになって頂けました。ところが、胃カメラも大腸カメラでも異常が見つかりませんでした。何十年も前におなかの外傷事故で小腸を縫ったことがあるとのことでしたので、小腸専用のカメラがある病院に検査をお願いしました。
2ヶ月後、すっかり元気になって帰ってこられました。昔の小腸の手術した跡からの出血だったとのことでした。その部位をもう一度手術し直してもらったのです。
久しぶりに会ってみると、笑顔の素敵な方でした。入院して来られた時とは別人のようでした。
きっと、急な体の異変にパニックになっておられたのでしょう。こういう時はご家族の存在が大きいです。患者さんと担当医という当事者ではない第3者の立場、けれども、患者さんのことは一番よく知っている家族が、落ち着いて温かく見守ってくれます。外来でお会いする度に、「自分の意見を一方的に押し付けてはいけないことを教えて下さった。」と感謝しています。

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