心に残った話(1) 「急性膵炎」
私のこれまでの24年間の医師としての経験の中で印象深いエピソードを時々紹介したいと思います。すべて実話ですが、個人の特定が出来ないように、場所や時代は多少事実とは違います。よかったら、読んでみてください。
今回の主人公はふっくらした中年の女性です。胆石が原因で急性膵炎になりました。すい臓は胃の背中側についている100g程度の小さな内臓です。
主な働きは消化酵素液を分泌することと血糖をコントロールするホルモンを分泌することです。膵炎をおこしますと、すい臓は自分の作った消化酵素液で自分自身を溶かしていくわけです。
この患者さんも激しい膵炎のために、集中治療室で意識がもうろうとしたまま数日が過ぎていきました。
私達医療スタッフは検温や処置をする度に、意識レベルの確認のためもあって、何度も何度も繰り返し「○○さん、どうですか?痛くないですか?」と呼びかけました。もちろん、返事はありませんが。そして、ある日を境に痛みが引いていき、すべての検査結果が改善してきました。本人も意識が戻り、しっかりとお話が出来るようになりました。
「先生。私、ずいぶん寝ていたでしょう?夢の中で、とってもキレイなお花畑の中を歩いていました。とても、気持ちよく、安らかに過ごせました。でも、後ろから何度も私を呼び止める声がするので、仕方なく振り返ったら、今、ちょうど目が覚めたのですよ。」
これまでにも、何度か、こんな話をする患者さんにお会いしたことはありました。いわゆる「臨死体験」というものだと思います。「あの世」が本当にあるのかは別として、今回の1件以来、私は、意識のない患者さんに積極的に呼びかけるようになりました。付き添われているご家族にも、患者さんの耳元で話しかけてあげるように勧めています。