心に残った話(10) 「インターフェロン治療」
私のこれまでの24年間の医師としての経験の中で印象深いエピソードを時々紹介したいと思います。すべて実話ですが、個人の特定が出来ないように、場所や時代は多少事実とは違います。よかったら、読んでみてください。
今回の主人公は、あと2,3年で定年退職を迎える50代後半の女性です。C型慢性肝炎の治療で通院されていました。肝炎を治す注射「インターフェロン」は、その当時は、さほど確実性のあるものではありませんでした。しかも、「肝生検」といって肝臓に直径2mmぐらいの長い針を刺して、肝臓の細胞を採っておくことが必須条件でした。インターフェロンの注射も、最初は毎日、途中から週に3回打たなければなりません。それを、半年から1年続けても、治る確率は50%以下でした。高額な治療費も負担でした。
治療は定年まで待つ。という選択肢もあったのですが、「一日でも早く治したい。」という気持ちが優先し、仕事は辞めて、治療に専念されました。治療の半ばで髪が全部抜けてしまい、かつらが必要になりました。(40万円したそうです。)でも、最後までやりぬいて、とうとう、肝炎ウイルスは消えました。その後、定期的にチェックしましたが、再発はありませんでした。病気を治す。という信念の強い方は病気が治るものなのですね。
【参考】現在のインターフェロン治療は週に1回の注射(1年間)で済みます。抗ウイルス剤(飲み薬)を併用することで、ウイルスの型によっては90%が完治しています。肝生検も入院も不要です。また、補助金の制度が充実しており、治療費の負担も大幅に軽減されています。