医療に関する話 「胃酸って悪者ですか?」 Part 1
つい10年ほど前までは胃潰瘍は胃酸の出過ぎでつくられると誰もが何の疑いもなく信じていました。最もポピュラーな医学書にも「No acid, no ulcer(酸のないところに潰瘍は出来ない)」と書いてあります。しかし、ピロリ菌が潰瘍の重要な原因であることが判明した現在では、除菌療法の有用性が認識され、潰瘍は抗生物質で治す時代となりました。
ところで、外来に来られた患者さんのお薬を拝見させて頂きますと、胃酸を止める強い薬を度々みかけます。この薬の一般名はプロトンポンプインヒビター(PPI)で、タケプロンなどの商品名で処方されています。個人的は、比較的安易にPPIが処方されているなあ。という印象を持っています。
では、胃酸ってそんなに有害なのでしょうか?
あるいは、胃酸を止めてしまうことは体に悪くないのでしょうか?
胃酸を止めてしまうPPIを飲み続けることに何の問題もないのでしょうか?
今回は、良く知られている胃酸について、少し、考えてみようと思います。
まず、胃液(胃酸)そのものを理解して頂き、どのように分泌されるかを説明しましょう。
胃液は1回の食事で約500ml分泌されます。無色透明で、塩酸、消化酵素(ペプシン)、粘液を含んでいます。pHは1と強い酸性を示しています(塩酸とほぼ同じです)。胃の粘膜には、それぞれ、塩酸、ペプシン、粘液を分泌する機能を持っています。
胃液の分泌は、口の中に食べ物が入った段階で始まりますが、皆さんもご経験があるように、美味しそうな食べ物を見たり、においをかいだだけでも胃液は分泌します。これは小さい頃からの繰り返しによる条件反射です。
また、ストレスホルモン(副腎皮質刺激ホルモン)が胃液を増やすことも知られています。これが、「ストレスで胃潰瘍ができる」という通説になった源です。
胃酸過多の症状としてはげっぷや胸やけが一般的です。胃内に送り込まれた食事は胃酸によって消化を受けます。また、ペプシンも蛋白質(お肉など)に作用して消化を始めます。
次回は、胃酸がなかったら、どうなるかについてお話しましょう。