心に残った話(21) 「十二指腸憩室の穿孔」
今回お話しするのは70代の男性です。
夜中に起こった突然の強烈な腹痛のために救急搬送されてきました。直ぐにCT検査をおこなったところ、十二指腸がドーナッツ状に腫れていました。さらに、その近くの腎臓付近に「空気」の溜まりを認めました。
十二指腸の後腹膜腔(注)への穿孔と診断し、安静・絶食と抗生物質の点滴で経過をみることにしました。しかし、内心は不安な気持ちで一杯でした。「穿孔の原因は?」「手術しないで大丈夫?」なにしろ、こんな病気は経験したことがなかったので、自分の判断が正しいのか自信が持てませんでした。不安な一夜を明かすと、翌朝には大分痛みは軽減しており、血液検査の結果も快方に向かっており、「ホッ」としました。
病状が落ち着いてから、造影検査と胃カメラをおこない、十二指腸の憩室が破れたことが原因と分りました。
文献を調べると、本邦で20例ほど十二指腸憩室の穿孔例が報告されていました。これほど稀な病気なら初めて経験するのも納得です。報告されている症例のほとんどが開腹術をおこなっているのですが、4例だけが手術をしないで治っていました。手術をしなかった決め手は「痛みが速やかに消えたから」といういたってシンプルなものでした。
手術をしなかった報告を読んでいると、すごく親近感が湧いてきました。きっとこの先生達も「手術しないで大丈夫だろうか?」という不安な気持ちで治療されたのだろうと思えたからです。手術しなかった患者さんのその後の経過を知りたくて、4人の先生に手紙を書きました。どの先生からも詳しい返事が返ってきました。わざわざ、電話を頂いた先生もいらっしゃいました。
どんなに医学が進歩しても、患者さんの痛みの程度が治療方針を決めるという「人間臭い」ところが、医学が単なる科学ではない奥深い所ですね。
(注)お腹のほとんどの臓器は「腹膜」という袋に入っていますが、十二指腸と膵臓と腎臓は入っていません。「腹膜」の背側に位置するこれら3つの内臓は「後腹膜臓器」と呼ばれています。
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