大腸smがん 1,000μmと800μm
初期の大腸がんは内視鏡治療(ポリープ切除)で完治します。一方、進行した大腸がんは外科的手術が必要です。内視鏡治療か手術か、その境目になるのが「smがん」です。smとは「粘膜下層」という意味です。先日、ポリープ切除をおこなった患者さんがsmがんでした。
大腸の壁は、内側から、①粘膜(粘膜固有層) ②粘膜下層 ③筋層(固有筋層) ④しょう膜下層 ⑤しょう膜 の5層構造になっています。①と②の境には「粘膜筋板」といわれる薄い筋肉の層があります。【右図参照】
がんの深さが①にとどまっていれば内視鏡治療で完治します。絶対にリンパ節転移はありません。
がんの深さが③④⑤であれば、外科手術が必要です。
②(粘膜下層)にがんが浸潤していた場合、粘膜筋板から1,000μm(=1mm)までの深さであれば、内視鏡治療で良いとされています。1,000μm以上あければリンパ節転移の可能性が10%程度出てくるために手術をした方が安全です。
先日、大腸ポリープ切除をおこなった患者さんの結果がsmがんでした。粘膜筋板(粘膜と粘膜下層の境にある薄い筋肉の層)からのがんの最深部までの距離は800μmでした。わずか、200μmの差でポリープ切除だけでOKという結果でした。しかし、それ程、人の心は単純ではありません。
・追加切除術を受けなかったばっかりに、数年後に、再発したらどうしよう。
・追加切除する必要が無いのに、手術を受けて、やっぱりリンパ節転移が1つも無かったら、その結果を素直に喜べるだろうか。手術しなければ良かったと後悔しないだろうか。
どちらを選択しても、不安と後悔を完全に消し去ることは出来そうにありません。
治療の選択に悩むということは、それだけ選択肢があるわけで、ある意味幸せなことです。治療方が1つしかない、あるいは、治療方が無い場合だってあるのです。
この患者さんは手術をしないで、経過をみていくことを決心されました。