大腸粘膜内癌とリンパ節転移
大腸粘膜内癌はリンパ節転移の報告は無く、大腸粘膜内癌はリンパ節転移しないと考えられています。先日、大腸ポリペクトミーをおこなった結果、粘膜内癌ではあるものの、リンパ管浸潤を認める患者さんがおられました。
【症例】50代女性
健診で便潜血陽性を指摘されたために当院で大腸内視鏡検査を受けられました。その際、直腸に10mm大のポリープを認めたため、ポリープ切除(ポリペクトミー)をおこないました。切除標本の病理診断で粘膜内癌と診断され、切除断端も陰性であったのですが、わずかにリンパ管浸潤を伴っていました。リンパ節転移の可能性が危惧されたため、大学病院で低位前方切除術が行われました。その際、リンパ節郭清も行われましたが、リンパ節転移は認めませんでした。
本来であれば、粘膜内癌で切除断端が陰性であれば、ポリペクトミーだけで治癒切除できています。しかし、この患者さんの場合、リンパ管浸潤を認めたことから、慎重に判断しなければならなくなりました。
① 本当にリンパ管浸潤があったのか? (免疫組織染色で再確認済です)
② 本当に粘膜内癌だったのか?
③ リンパ管浸潤はしていても、まだ、リンパ節に転移していない状況だったのか?
等、いくつかの可能性が考えられます。
新潟大学外科から、36例の大腸粘膜内癌手術症例に免疫組織染色を用いてリンパ節微小転移が無いか検討したところ、1例も認めなかったとの論文がだされています。大腸粘膜内癌はリンパ節転移のない癌であることが再認識されたと結論付けられています。
一方、産業医大内科から、内視鏡治療で治癒切除出来た58例の胃癌症例について、切除標本を追加薄切し詳細に再検討をおこなったところ、15%に診断が変更になったとする報告が出されています。病理診断は、切除標本を2,3mm間隔で切り出し、その割面を観察しますが、切り出し間隔を狭くすれば、より詳細な診断が得られるわけです。ただし、ポリープのような小さな標本では、それは難しいかもしれません。
この患者さんの場合、リンパ節転移は無かったので、結果的には追加の手術は必要なかったわけです。しかし、「リンパ節転移しているかもしれない」という不安を抱えたまま、日々を送ることも辛いことです。医学には必ずこのようなボーダーライン上の判断の難しい場面があり、それを乗り越えるためには、過去のデータの蓄積と医師と患者さんの納得のいく話し合いが必要だと思います。