家族性地中海熱
「自己炎症性疾患」と呼ばれる、「自己免疫疾患」に名前は似ているけれど、全く別物の疾患があります。家族性地中海熱も自己炎症性疾患です。
【10歳代女性】
半年前から、1~2ケ月に1回の頻度で、激しい腹痛が出現しています。発熱はありません。前医では腹痛時の血液検査でCRP(炎症反応物質)が高値であることが指摘されています。今回の腹痛発作で、初めて当院を受診されました。当院でも白血球増多、CRP高値を認めました。来院時には痛みのピークは過ぎており、比較的落ち着いておられました。BMIが19と瘦せ気味で、クローン病を念頭に大学病院で診て頂くことにしました。大学病院で詳しく調べた結果、クローン病は否定的であり、『家族性地中海熱』の亜型の可能性を指摘されました。今後は、腹痛発作時にこの疾患の特効薬であるコルヒチンを内服することで痛みが和らぐか、経過をみていくことになりました。
家族性地中海熱について調べるといろいろ興味深いことが分ってきました。
・多くの医師がこの病気を知らないことから診断がつくまでに数年から数十年を要している患者さんが多い。
・発作中は激しい症状が出るのに対し、非発作時は苦痛なく生活が出来るため、周囲の理解が得にくい(さ病と思われがち?)。
最近の消化器病学会の症例報告を紹介します。
① 20歳代女性。腹痛、下血、発熱でF大学病院に入院。CRP強陽性。最初は、感染性腸炎と診断し、抗生物質を投与するも効果なく、次に潰瘍性大腸炎と診断。メサラジン、プレドニン(なんと60mgも!)、アザチオプリン(免疫抑制剤)を投与するも効果なし。ようやく、家族性地中海熱が鑑別疾患に挙げられ、遺伝子解析をおこなったが、確定診断には至らず。診断的治療でコルヒチンを投与すると、劇的に改善した。診断に至るまでに1年以上を要した(反省の弁はありません)。
② 20歳代女性。発熱と腹痛。1カ月おきに3回症状が出ている。N大学病院で、感染性腸炎→炎症性腸疾患(クローン病、ベーチェット病)が疑われ、3回目の発作時に遺伝子解析から家族性地中海熱と診断された。コルヒチンが投与され、著効した。早い段階からこの疾患を念頭に置いていたので早期診断につながった(チョッと自慢げ)。
家族性地中海熱は名前の通り地中海沿岸に多い病気ですが、日本にも500名程度の患者さんがいると推定されています。ちゃんと『難病』に指定されています。今回、この患者さんが当院を受診してくださったことで、とても有意義な経験が出来ました。次からは、月に1回起こる腹痛や発熱の患者さんを診たら、家族性地中海熱を鑑別疾患にあげながら、診察しようと思います。
【おまけ】家族性地中海熱とは別に、地中海熱(ブルセラ症)という病気があります。細菌感染が原因です。地中海性貧血(サラセミア)は、グロビン蛋白の先天的な異常による貧血症です。