「開院10周年シーズン3」⑤腹部レントゲン写真で胃拡張がみえました。
『開院10周年』を迎えるにあたって、私が10年間続けてこられたもののひとつにブログがあります。日常生活においては、思いがけないことが起こることがあります。また、検査や治療においても、予期せぬ結果を招くことがあります。今回のシリーズでは「アクシデント」や「偶然」がもたらしたお話です。
嘔吐で来院された70代の男性の方です。
激しく吐いてしまうと、後は割と楽になるそうです。診察上は、柔らかいお腹で、腸雑音もイレウスを疑わせる音は聞こえませんでした。何か腑に落ちないものを感じたので、腹部レントゲン写真を撮ってみました。そうすると、腸のガスがお腹の真中から下に向かって凸状に弧を描くように圧排されていたのです。通常の腹部レントゲン写真では、胃は穹窿部のガス像が写る程度でほとんど存在感がありません。しかし、この方の写真は、「胃が張っている」という存在感を強く感じました。
救急病院にお願いしてその日のうちに腹部CT検査を受けて頂き、十二指腸水平脚に狭窄があることが確認されました(狭窄の原因は、悪性疾患の十二指腸への転移でした)。
勤務医だった頃に、一度だけ同じような腹部レントゲン写真を見たことがありました。その時は、十二指腸水平脚の粘膜内血腫による狭窄が原因でした。珍しい症例だったので、学会で発表しました。今回はその経験が生かされました。
研修医だった時に、消化器内科の部長先生が、立位と臥位の腹部レントゲン写真の写真を見比べて、胃のガス像の形が同じだったら、それは「胃が硬い」ということだから、スキルス胃癌も考えていた方が良いよ。と教えてもらいました。『レントゲン写真だけでスキルス胃癌を診断してしまうなんて、何てスゴイ先生なんだ。』と感動しました。それ以来、腹部レントゲン写真をみる時は、まず胃の辺りをみる習慣がついてしまったのです。