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中野胃腸クリニックBLOG

9 月 2 日, 2019

「開院10周年シーズン3」②白血病

『開院10周年』を迎えるにあたって、私が10年間続けてこられたもののひとつにブログがあります。日常生活においては、思いがけないことが起こることがあります。また、検査や治療においても、予期せぬ結果を招くことがあります。今回のシリーズでは「アクシデント」や「偶然」がもたらしたお話です。

採血風景です。一昨年と昨年に、1名ずつ(合計2名)の方が、当院の受診をきっかけに白血病と診断されました。当院を受診される方が大体、1年間に1万人ですので、確率的には0.01%といったところでしょうか。

1人は20代の初診の方で、良くある「風邪症状」で来院されました。喉も腫れていないし、首のリンパ節も腫れていません。呼吸音も問題ありません。ただ、「以前、健診で白血球が多いと言われたことがある。」という患者さんの訴えが気になりました。そこで、念のために、末梢血液(白血球、赤血球、血小板数)を調べてみたのです。その結果、異常に白血球が増えていました。バイ菌が体に入った時の増え方とは、ひと桁違っています。直ぐに、総合病院の血液内科に連絡し、入院をお願いしました。(現在、お元気です。)

もう一人は70代の方で、毎月1回、糖尿病で通院しておられました。定期の通院日に来院されましたが、数日前から体調がすぐれないとのことでした。明らかに顔色が悪く、生気がありません。いつもは、血糖などの糖尿病の項目だけチェックしているのですが、末梢血液も調べてみました。その結果、白血球、赤血球、血小板数とも著しく少なくなっていました。特に、血小板数は、正常下限の10分の1になっていました。直ぐに、総合病院の血液内科に連絡し、入院をお願いしました。(現在も療養中です。)

1人目の方からは、初診の患者さんには、何が隠れているかわからない怖さを痛感しました。患者さんの訴えを良く聞くことの大事さも再認識させられました。診察室に何でも話せるムードを漂わせておかなくてはいけません。患者さんの話をさえぎるのは勿論NGですが、「あなたのために、充分な時間をとっています。」と感じて頂けることが必要だなと思いました。

2人目の方からは、いつもの平時の診察こそが大事であることを思い知らされました。些細な異常をいち早く察知するためには、平時の時の入念な全身チェックが必要です。日頃の診療レベルを上げなければいけないと思いました。

限られた時間の中では、つい、定型的な診察に流されがちです。患者さんの訴えも「不定愁訴」として片付けてしまうことがあります。その結果、重大な病気を見落とさないように、日々、精進してまいります。

9 月 1 日, 2019

「開院10周年シーズン3」①大腸smがん

『開院10周年』を迎えるにあたって、私が10年間続けてこられたもののひとつにブログがあります。日常生活においては、思いがけないことが起こることがあります。また、検査や治療においても、予期せぬ結果を招くことがあります。今回のシリーズでは「アクシデント」や「偶然」がもたらしたお話です。
初期の大腸癌は内視鏡治療(ポリープ切除)で完治します。一方、進行した大腸がんは外科的手術が必要です。内視鏡治療か手術か、その境目になるのが「smがん」です。smとは「粘膜下層」という意味です。

smがんが内視鏡治療だけで大丈夫と言えるためには、がんの最深部が粘膜筋板から1,000μm(=1mm)未満であること以外にもいくつかの条件があります(大腸がん治療ガイドライン)。
① 高・中分化型のがんであること(おとなしいがんという意味です)
② 血管やリンパ管へのがんの浸潤がないこと
③ 最深部でのがん細胞の散らばり具合が低いこと

これらの条件をすべて満たせば、smがんであっても、がん細胞のリンパ節転移はほとんどないことが確認されており、内視鏡治療で完結してよいことになっています。しかし、ひとつでも条件を満たさなければ、外科的手術をするべきです。

先日、50歳代の患者さんで大腸ポリープ切除をおこなったところ、smがんであることが判明しました。ガイドラインの内視鏡治療の適応条件はすべてクリアしていましたが、ご本人の希望により、追加の外科的手術を受けて頂きました。その結果、意外にも所属リンパ節にがんの転移が1か所見つかったのです。もし、内視鏡治療だけで終了していれば、リンパ節に転移していたがんが数年後には大腸がんの再発を来していたと思います。考えただけでぞっとしました。医学には例外がつきものですね。

結局、内視鏡治療というのは「摘除生検」にしかすぎないのです。完全にがんが取り切れたと思っても、見えない所のことは判らないのです。内視鏡治療を選択した場合は、厳重な経過観察が必要であることを再認識しました。

あとがき】smがんは内視鏡治療か、外科切除か、常に悩ましいですね。原則、『大腸癌治療ガイドライン』に則って治療方針を決めるわけですが、この方の様に、ガイドラインに逆らって手術を選択したことが正解ということもあるわけです。リンパ節転移が1個でもあれば、癌の病期はステージⅠから一気にステージⅢに上がります。ステージⅠであれば、局所切除だけでいいのですが、ステージⅢであれば、所属リンパ節の郭清および術後の抗がん剤投与(6か月間)が一般的です。治療内容も大きく変わりますし、5年生存率も違います。当院では、smがんで念のために追加切除術を受けて、リンパ節転移が見つかったのはこの方を含め2人いらっしゃいます。追加切除を受けるか否か、毎回、迷います。

8 月 11 日, 2019

開院10周年記念 シーズン2 ⑪ネフローゼ症候群  

開院10年間で経験した印象深い病気を患った患者さんをご紹介したいと思います。なるべく、ご本人が特定されないように注意して書きました。

足がむくんだ!70代男性
ハッキリとした自覚症状は無く、何となく元気が無いとのこと。診察では特に異常はありません。むくみも認めませんでした。精査のために血液検査を受けてもらったところ、低蛋白血症、低アルブミン血症を認めました。尿検査はしていません。悪性疾患の存在を疑い、大学病院に精密検査を依頼しました。その結果、ネフローゼ症候群と診断されました。ネフローゼ症候群とは尿に大量の蛋白が排泄される原因不明の病気です。

紹介する際に、ネフローゼ症候群のことはまったく考えていませんでした。なぜ、診断出来なかったのか、成書を読みながら振り返ってみました。
❶ネフローゼ症候群の1/4は浮腫を来さない。
❷ネフローゼ症候群は20才未満が65%と圧倒的に多いが、70歳以上にも%程度と少ないながらも報告はある。
ネフローゼ症候群イコール「むくむ」「若い人の病気」という固定概念にとらわれていたのですね。むくみの無い高齢者でもネフローゼ症候群はあり得るのです。ただ、その確率が低いということです。

低蛋白血症(低アルブミン血症)をみたら、
① 摂取不足(低栄養)か吸収不良が無いか。
② 蛋白が尿から漏れていないか(ネフローゼ症候群)、便から漏れていないか(蛋白漏出性胃腸症)。
③ 慢性の炎症(自己免疫疾患、他)や悪性腫瘍が無いか。
④ 肝機能障害が無いか。
というふうに、順序立てて考えていけば、丁寧な問診(きちんと食事はとれているのか、便の性状はどうか、など)と、簡単な血液と尿検査だけで診断が絞られてきます。今回の経験を明日からの診療に役立たせたいと思います。

開院10周年記念 シーズン2』は今回で終了いたします。ご愛読ありがとうございました。

8 月 10 日, 2019

開院10周年記念 シーズン2 ⑩膵石(すいせき) 

開院10年間で経験した印象深い病気を患った患者さんをご紹介したいと思います。なるべく、ご本人が特定されないように注意して書きました。

スターフライヤーは北九州空港の飛行機です。
【50代男性】

慢性膵炎で当院に通院中の方です。腹痛などの症状は無いものの、膵酵素の異常高値が続くためCT検査を受けたところ、主膵管に膵石が見つかりました。(*主膵管とは、膵臓の真ん中を貫いている膵液の通る管です。膵臓で作られた膵液はこの管を通って十二指腸に流れていきます。)
大学病院の治療方針は内科医、外科医ともに、「膵石による症状が出たら、手術を検討する」という結論でした。別の病院でも診て頂いたのですが、まったく同じ回答でした。内視鏡治療の選択肢はありませんでした。
ご本人は「悪くなるまで待つというのは性に合わない。」と、この治療方針に納得されませんでした。
そこで、症状が無くても手術以外の方法で膵石を治療してくれる病院を探しました。その結果、内視鏡で膵石を取り除いてくれる病院が見つかり、九州から東京に出向くことになったのです。

ガイドラインでは、膵石に対する内視鏡治療は、原則、疼痛を認める症例を対象としています。ただし、疼痛がない場合でも、膵萎縮が無く膵機能の改善が期待できる症例も適応とすると記されています。この一文が、患者さんにピタリ当てはまりました。

私が、東北地方の病院に勤務していた頃のことです。膵癌の患者さんの手術を外科に依頼しましたが、血管走行の異常から、手術は出来ないと判断されました。そこで、特殊な手術方法の論文を見つけ、その論文を書いた東京の先生に患者さんをお願いしたのです。(無事手術を終えて、帰ってこられました。)
その時、自分の勤めている病院だけで判断しないで、もっと広い視野で治療を選択出来ることに気付いたのです。今回はこの経験が生かされました。

8 月 9 日, 2019

開院10周年記念 シーズン2 ⑨フィッツヒュー・カーティス 症候群 

開院10年間で経験した印象深い病気を患った患者さんをご紹介したいと思います。なるべく、ご本人が特定されないように注意して書きました。

お腹が痛い!「症候群」は、その病態を最初に発見した人の名前を付けることが一般的です。
フィッツヒュー医師とカーティス医師がそれぞれ、女性の性感染症による腹痛を報告したのが最初で、この名前が付きました。
現在では、クラミジア(等)感染症による骨盤周囲炎と同意語になっています。

【症例】20代女性
強い右上腹痛のために来院されました。嘔吐、下痢はありません。発熱もありません。診察では、腸雑音に異常は無かったのですが、打診(中指をもう一方の中指でトントンと叩くやつです)すると、強く痛みを訴えられました。痛みは広範囲で、部位を特定できませんでした。触診上、お腹は柔らかく、腹膜炎の可能性はなさそうでした。血液検査では、白血球数は正常で、白血球の成分も正常でした。エコー検査では胆石は認めませんでした。

ここまでで一旦頭の中を整理してみました。
① 腹痛ではあるけれど、胃腸症状は無い。こういった場合はむしろ要注意である。虫垂炎、尿管結石、お腹の血管の閉塞、などいろいろ考えておかなければならない。白血球が増えていないので、虫垂炎ではなさそうだ。血尿の訴えはなく、尿管結石も考えにくい。不整脈がないことから血栓が詰まる可能性は低そうだ。
② 強い痛みを訴えている割には、診察上、異常所見は認めない。
③ 女性の腹痛は子宮や卵巣が原因の可能性もある。

そこで、性感染症の可能性をご本人に説明し、クラミジア抗体を測定し、クラミジアに効果のある抗菌剤を処方することを了承して頂きました。
フィッツヒューカーティス症候群は、その激しい痛みのために、緊急手術になることが時々あります。この方も、非常に強い痛みでしたが、腹膜炎の所見はなく、落ち着いて診察が出来ました。なお、クラミジアに感染しても白血球は増えないことが多いのです。

後日、来院された時は、腹痛はおさまっていました。クラミジア抗体が上昇していることを説明し、産婦人科医にその後の治療をお願いしました。

【余談】三十数年前、医師国家試験に備えて、数多くの症候群を暗記しました。フィッツヒューカーティス症候群は無かったですね

8 月 8 日, 2019

開院10周年記念 シーズン2 ⑧アルドステロン症

開院10年間で経験した印象深い病気を患った患者さんをご紹介したいと思います。なるべく、ご本人が特定されないように注意して書きました。

レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系高血圧の患者さんの5%程度に存在すると言われているアルドステロン症ですが、これまで一度もお目にかかったことがありませんでした。

【レニン・アルドステロンの説明】
体内を流れる血液量が減ると、レニン(ホルモンの一種)が刺激されます。レニンはアンギオテンシンを介して、アルドステロンを分泌させます。アルドステロンは腎臓でナトリウム(Na)を再吸収し、カリウム(K)を排出します。その結果、血圧は高くなり、血中のK濃度は低下します。

【アルドステロン症のメカニズム】
体のどこかにアルドステロンをドンドン産生する腫瘍があるために高アルドステロン血症になります。その結果、高血圧となります。レニンはフィードバックがかかって産生が抑制されます。アルドステロン症では「低レニン・高アルドステロン」になるわけです。

【症例】
30代の女性で、風邪症状で来院されました。血圧170/120mmHgと異常に高かったのですが、これまで高血圧を指摘されたことは無かったそうです。時々、病院に来ると緊張して異常に血圧が上がる方がいらっしゃいますので、2週間ほど自宅で血圧を測って記録を持って来て頂くようにしました。
次の診察時に血圧の記録を見せてもらうと、自宅でも血圧が高いことがわかりました。そこで、レニン・アルドステロンを測定したところ、アルドステロン症の診断基準を満たす結果でした。エコー検査では副腎腫瘍は無かったので、腫瘍の無いタイプかも知れません。現在、大学病院で精査中です。早く結果が知りたいですね。

成書には、高血圧の患者さんは全員、初診時にレニン・アルドステロンを確認しておくことを勧めています。降圧剤を飲み始めるとレニン・アルドステロン値に影響が出るためです。レニン・アルドステロンを測定する時は、15~30分以上、安静臥床を続け、それから採血しなければ正確な値が出ません。ですから、高血圧の方にレニン・アルドステロンの採血をするのは、なかなか勇気のいることなのです。

古典的には、高血圧と低K血症の組み合わせがあるとアルドステロン症を疑うのですが、最近では、低K血症を起こすアルドステロン症は20%程度だそうです。アルドステロン症を見つけるのはなかなか難しいと思います。

8 月 7 日, 2019

開院10周年記念 シーズン2 ⑦アカラジア

開院10年間で経験した印象深い病気を患った患者さんをご紹介したいと思います。なるべく、ご本人が特定されないように注意して書きました。

バリウムがなかなか食道から胃に流れていきません!アカラシアとは下部食道噴門部(胃の入り口)が緩みにくくなることで、食物の通過障害を来たす病気です。先日、当院でアカラシアが見つかった方が、最新の手術を終えて、1年ぶりに来院されました。すっかり、元気になり表情も明るくなっておられました。

アカラシアは10万人に1人程度のまれな病気です。症状も嚥下困難、食欲不振、嘔吐、胸痛など、それほど特徴的なものはありません。そのために、診断に時間がかかることがしばしば見受けられます。摂食障害と診断され、心療内科に長く通院していた報告もあります。

その方は30代前半で、すでに、いくつかの病院を受診されていました。「逆流性食道炎」の診断のもと、抗潰瘍薬(プロトンポンプインヒビター)が処方されていましたが、あまり効果は無かったようです。当院で胃カメラを受けて頂きましたが、特に異常を認めませんでした。この方はとてもしっかりした受け応えで、病状を的確に説明されましたので、心因的な要因は無さそうでした。診断の決め手となったのは、「水が飲み込みにくい。」という言葉でした。アカラシアは、何故か、固形物よりも流動物の方が飲み込みにくいのです。アカラシアの可能性があることをご本人に説明し、大学病院を受診して頂きました。

その後、別の大学病院でアカラシアの根治手術「内視鏡的食道筋層切開術(POEM)」が施行されました。この治療法が導入されて以来、アカラシアは完治する病気になりました。なお、POEMは2008年、世界に先駆けて日本で実施されています。

患者さんが「先生に出会わなかったら、今の私は無かった。」と話してくださいました。医者冥利に尽きる最高の褒め言葉でした。

8 月 6 日, 2019

開院10周年記念 シーズン2 ⑥若年者の胆石症

開院10年間で経験した印象深い病気を患った患者さんをご紹介したいと思います。なるべく、ご本人が特定されないように注意して書きました。

先日、20代前半の女性で、胆石と総胆管結石による上腹部痛(心窩部痛)の患者さんがいらっしゃいました。年齢が若いから胆石はないだとう。と決めつけていたことで、診断までに遠回りをしてしまいました。

総胆管は肝臓と十二指腸をつなぐ管です。20代前半の女性で、食後に胃の辺りと背中が痛むために来院されました。2度目の診察で、胃カメラを受けて頂きましたが異常は見つかりませんでした。
胃薬で様子を見ていましたが、しばらくして、再び強い痛みが出たため、3度目の診察でエコー検査をおこない、胆石を確認しました。「まさか!」って感じでした。さらに、血液検査では、肝胆道系酵素が異常値を示していました。直ちに、大学病院を紹介し、CT、MRIなどの精密検査の結果、「胆のうと総胆管に結石あり」と診断されました。総胆管結石を内視鏡的に摘出した後に、胆のう摘出術が施行されました。

胆石症は「太った40代の女性」に多いということが定石です。太った(fatty)、40代(forties)、女性(female)といずれも『F』で始まるので覚えやすいのです。ところが、胆石・総胆管結石患者さんの男女比は1対1.2でさほど女性に多いわけではありません。50~60代にピークがあり、40代ではありません。「胆石は40代の女性に多い」という誤った概念を払しょくしなければなりません。

胆石・総胆管結石患者さんの15%は20代、30代であることから、決して、若年者にはまれというわけでもないのです。

実は、もうひとつ、反省しなければいけないことがあります。患者さんが、介護職だったため、きっと仕事のストレスが大きいだろうなあ。と勝手に想像していたのです。胃の痛みも『仕事のストレス』の要因が大きいと決めつけていました。

そういった点を反省しながら、カルテを見直していると、初診時に「背中も痛い」と記載しているではないですか! 胃潰瘍では背中は痛くなりません。胆石なら、右の肩甲骨あたりに痛みが放散することがしばしばあります。最初の出だしでつまずいていたのです。

8 月 5 日, 2019

開院10周年記念 シーズン2 ⑤抗リン脂質抗体症候群 

開院10年間で経験した印象深い病気を患った患者さんをご紹介したいと思います。なるべく、ご本人が特定されないように注意して書きました。

お腹の血管はアーケードを形成しています。40代女性
1週間ほど前から続く上腹部痛のために来院されました。痛みの程度はうずくまるほどの激痛では無いけれど、これまで経験した胃の痛みよりは強い。という感じでした。エコー検査で胆石は無く、胃カメラでは胃潰瘍を認めませんでした。検査の結果を説明している間も、自然に手がお腹に行ってしまっており、痛みの深刻さが伝わってきました。その日のうちに腹部CT検査を受けてもらった結果、腹腔動脈と上腸間膜動脈の起始部での血栓による閉塞が確認されました。どちらもお腹の大事な血管です。閉塞部位を迂回する血管のバイパス手術が施行されました。
当院で採血していた保存血液で「抗カルジオリピン抗体」が陽性と判明したことより、血栓の原因は抗リン脂質抗体症候群だと思います。なお、確定診断を付けるためには12週間以上間隔をおいて再度、測定することが必要です。

抗リン脂質抗体症候群は、血中に抗リン脂質抗体と呼ばれる自己抗体が、様々な部位の動脈血栓や静脈血栓を来す疾患です。脳で起これば、脳梗塞が発症しますし、末梢動脈の閉塞では皮膚潰瘍が、網膜の血栓では視野異常失明を来します。今回、腹腔動脈と上腸間膜動脈の閉塞という非常に大きなトラブルにもかかわらず、内臓に大きな障害が出なかったのは、腹部の動脈がお互いに血流が行き来できる「アーケード」を形成しているためではないかと考えます。
なお、リン脂質抗体症候群は「習慣性流産」の既往が有名ですが、この方の場合、定かではありません。診察した際に、確か妊娠線は無かったと記憶しているので、出産の経験が無いかもしれません。
この病気の原因は不明であり、治療は抗凝固剤(血液をサラサラにする薬)の内服による血栓の予防しかありません。再発率は高いようです。

原発性の抗リン脂質抗体症候群は日本に5,000~10,000人程度いると推定されています。“1万人に1人“というかなりまれな病気です。それだけに、強く印象に残る経験でした。

8 月 4 日, 2019

開院10周年記念 シーズン2 ④大腸カメラ後の虫垂炎

開院10年間で経験した印象深い病気を患った患者さんをご紹介したいと思います。なるべく、ご本人が特定されないように注意して書きました。

最近、この人、何回も出てきてます。【20代の方です】
腹満感や便通異常の精査目的で大腸カメラを受けて頂きました。検査は、通常通り終了し、大腸に異常を認めませんでした。
検査後からお腹の張りを自覚していたのですが、徐々に悪化したため、検査後5日目に来院されました。盲腸の部位に一致して圧痛を認め、血液検査でも白血球が増えていることから、大腸カメラが誘因となった虫垂炎と判断しました。
それほど、強い痛みではなかったため、抗生物質で経過をみることが出来ました。

大腸カメラの前処置で飲む下剤の影響で糞便が虫垂口に詰まったり、検査の際の送気が刺激になったことで、大腸カメラ後に虫垂炎を起こすことがまれにあります。
今回も、そういった経緯であろうと判断し、慌てることなく、診察できました。

文献を調べてみますと、色々な報告がありました。
・大腸カメラの後に腹膜炎を来したが、原因は、虫垂に魚の骨が刺さったためであった。

・大腸のポリープ切除をした後に、大腸の穿孔を来し緊急手術になったが、穿孔の原因はポリープを切除したためではなく、虫垂炎が破れたためであった。
などなど。

大腸カメラの後に虫垂炎をおこすことがある。」ということを知っていなければ、検査の後の腹痛に主治医が動揺し、その後の対応を誤り、患者さんに余計な不安(又は怒り)を与えることになります。知識(経験)が大事であることを改めて感じました。


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